第五回特別授業:理科担当・伏木先生


【1月テーマ】「日本食」を科学する

(理科担当:伏木亨先生


「おいしい」を科学的に分析してみましょうか。

1.現在の日本の「食」における問題

 今、日本の「食」は、食料自給率の低下、伝統的文化の衰退、肥満や糖尿病といった生活習慣病の増加など、さまざまなレベルで課題を抱えながら、停止も方向転換もむずかしい巨大タンカーのように突き進んでいきます。

 進行方向に大きな危険が潜んでいることを、多くの人が気付いています。もっと別の方向を目指すべきだという提案も少なくありません。しかし、それらは「食」全体の方向転換には未だに結びついていないのが現状です。

 ―「食」は私たちの命を支える最も基本となるもの。親子をはじめ、人と人とを結びつけるもの。そして長い歴史の中で人々が積み上げてきた知恵と経験の結晶。このことを大人が改めて自覚し、互いに連携し合いながら、それぞれが「一歩すすもう」。それが、未来ある子供たちのためにすべきことだ―これが導きだした結論であり、「食」を抜きにして人間の生活はありえません。また「食」の問題を抜きに私たちの未来を語ることもできません。

2.日本の朝はデンプンで始まる

 古くから、朝ごはんは炊いたごはんと決まっていた。朝からすきやきやステーキは日本人には重い。漬物や塩鮭など、塩辛いものを少し食べて大量のごはんを食べる。中国ではお粥。奈良県の朝粥も有名である。実は、これらは非常に理にかなっている。

 米には豊富なデンプンが含まれている。これが朝食には重要なのである。米のデンプンは体内でグルコースに分解される。グルコースは血糖の成分である。血糖は、脳の唯一のエネルギー源である。脳は脂肪を燃料に使えないので、血糖は生命を担っている。肝臓の中にはグリコーゲンの形で、糖が少し貯蔵されている。この場合、肝臓は倉庫の役目をしている。

 「一粒300メートル、赤い箱のグリコ」 その名の由来となったグリコーゲンである。脳の栄養を確保するために、肝臓グリコーゲンが使い果たされてしまって、血糖が低下するような事態になったら、人間の体は、肝臓や筋肉などあらゆるタンパク質を分解して血糖を作ろうとして必死になる。それほど、脳は大切にされている。ちなみに、一日中動き続けている心臓は、脂肪を重要なエネルギー源としている。脂肪は、長く続く運動にとって重要なエネルギー源である。

 とくに朝は、前夜から何も食べていないので血糖が不足気味である。肝臓のグリコーゲンはほとんど残っていない。体のタンパク質は分解され、糖への変換が始まっている。はやくグルコースを補給しないと、どんどん身を削ってしまう。朝食にごはんがおいしいのは、習慣もあるが、血糖を素早く補うための脳の欲求である。朝から脂肪はいらない。したがって、高たんぱく質・高脂肪食に興味がわかないのも当然である。

3.ごはんと和のおかず一品、あとはお好きに

 もしも、ごはんを中心に据えなかったら、それぞれの料理が主食になる。満腹するまでに相当なカロリーをとってしまうことになる。日本人の食事にしめる脂肪の量はカロリー比で25から29%くらいである。一方、アメリカやヨーロッパは軒並み40%を超えている。この違いが、ごはんという主食にあることは明らかである。

 ごはんは日本型の食事の基本である。それとだしの味がするおかずが少しあれば、日本の食生活は守れる。あとはごはんと一緒に、渡来のイタリア風味でも中華味でも何でも食べればいい。ごはんは水分が多く低カロリー低脂肪だから、トータルしても、過剰な脂肪やカロリー摂取になりにくい。

 和食は、基本的に低カロリーです。肥満しにくい。多少の塩分なんて怖くありません。世界一長寿国の今の日本の老人を見れば一目瞭然です。

 ただし、適度なコレステロールを含む動物性食品(※)を食べないと、ごはん食でも血管が弱くなります。かつての日本では、中風、脳内出血が多かったのはそのせいです。戦前のような完全なごはんベジタリアンを目指すのでないかぎり大丈夫ですが。

 「ごはんは太るって聞きました」 馬鹿を言ってはいけません。ごはんの方が、水分も体積も大きい。同じカロリーならば、腹持ちがいい。おいしすぎて太るというのならわかりますが。

4.一般人にはやっぱりごはん

 なんでもかんでも日本食やごはんがいい、と言っているわけではありません。それぞれの国の料理には、それぞれの伝統があり、そこに住む人の思い入れもあります。日本の文化や伝統を大切にし、健康を重要な価値であると考えると、日本人にはやはりごはんがいいと勧めているだけです。

 日本人の寿命(2002年の統計で男女平均81.8歳)は世界一です。今の中高年が育ってきた時代の食事が、長寿に寄与している可能性が高いと思われます。欧米人は若いうちは美しくても、歳をとると日本人の方がはるかに美しいと感じることが多いのも、食事の影響があるでしょう。

 見た目の問題ばかりではありません。人口に比べると土地が狭く、農業資源も豊富ではない日本では、主食として自給できる可能性のある作物は米だけなのです。

 別の価値観もあります。例えば、欧米の高栄養食は子供を大きく育てます。幼少期の栄養だけで将来の体格が決まるわけではありませんが、移民やその子供の研究調査によると、食事が体格に与える影響が少なくないことがわかっています。子供に充分な素質があって、プロスポーツ選手に育てたかったら、よくプログラムされた訓練とたくさんの栄養を与えるのもいいでしょう。それも価値観の一つです。

 このように、はっきりとした価値観や意識のもとに食事を選択することは、すばらしいことだと思います。人生をどう生きるか決めるのは、個人の権利です。栄養学や栄養学者は、できる限りの情報を提供することによって、個人の価値観の実現に力を貸すことが最も今日的な使命であると思います。

 しかし将来を見据えるわけでもなく、欧米の高栄養食を漠然と食べて、生活習慣病のリスクのみを増やしていくような食事からは、はやく卒業すべきでしょう。伝統的な日本の食事をお勧めします。

※動物に由来する食品。肉・魚・貝・卵・乳など。たんぱく質・脂質・ビタミン・無機質が豊富



Posted by STAFF at 2008年01月26日 00:00 │Comments(8)TrackBack(0)理科

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◆この記事へのコメント

日本人の食生活として当たり前のことのように食べてきたご飯ですが、考えてみればすごくすばらしい食べ物なんですね。ご飯は毎食食べられるけど、パスタ、ラーメン、うどん、・・・は毎食はちょっと食べられないですものね。これを考えてみてもすばらしいです。
Posted by もこもこもこもこ at 2008年01月26日 09:43
知識はあっても行動できない。知識と行動の間のギャップをどう埋めていくか。こういった課題が非常に大きいという話をお聞きしたことがあります。本当にそうですね。階段を歩くのがいいのはわかっていても、ついついエスカレーターに乗ってしまう。歩くことで健康にも貢献できるし、エネルギーの節約にもなる。TVCMでも「知っているけどしていない」のコピーが虚しく流れていますが、効果があるとは思えません。危機感何んて本当はないのかもしれません。
Posted by はっちゃんはっちゃん at 2008年01月26日 10:12
ありがとうございます。
すごい説得力のある授業でした。
Posted by ke-koke-ko at 2008年01月26日 23:19
分かりやすい授業でした。
Posted by kittykitty at 2008年01月28日 20:30
詳しい説明、わかりやすかったです。
Posted by えっちゃんえっちゃん at 2008年01月30日 15:05
やっぱり食事時にはご飯を食べないとお腹がしっくりこないのは、「日本人」の血が流れているからなのでしょうか?!!
Posted by み~もみ~も at 2008年02月04日 10:37
日本の「食」を羅針盤のない巨大タンカーに例えられた内容は大変ショックです。経済成長の陰に隠れて、「食」のことをおろそかにした報いでしょうか。一人の力は小さいですが、ささやかでも我が家の食卓から見直します。
Posted by フータロウフータロウ at 2008年02月14日 12:34
ラジオでご組を知り入学させていただいてから、少しづつ過去の授業もさかのぼって受けているのですが、今回の授業で全てがつながりました。例えと詳しい説明でとてもわかりやすかったです。ありがとうございました。
Posted by かつまろかつまろ at 2008年03月15日 16:21
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